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10話
むつは咄嗟に祐斗の口をふさいで、近くの木に身を寄せるようにして隠れた。木に背中をあずけ、むつはそっと顔を出した。そして、窓を開けたのが誰なのかを確認した。そこには気の強そうな目をした、若い女が居た。颯介ともさほど歳の差がないように見える。だが、姉や妹の話は聞いた事がない。そもそも、弟が居た事もついこの前知ったのだから、他に兄弟がいてもおかしくはない。
きょろきょろと用心深く、辺りを見回した女は、ぴしゃりと窓を閉めた。そして、カーテンを引いてしまった。これでは、窓から女が離れたかどうかも分からない。ちっと舌打ちを鳴らしたむつは、今や完全に仕事モードの顔をしている。だが、むごむごっと胸元で何かが動くと、いぶかしげに見た。
「…あ」
ぱっとむつが手を離すと、すぐに祐斗がむつと距離をとって大きく息を吸い込んだ。
「ごめん…忘れてたや…」
口と一緒に鼻までもふさいだあげくに、その頭を引き寄せてぴったりとくっついていた事をようやく思い出した。