10話
祐斗が思いの外、真っ直ぐに強い視線をむつに向けていた。むつもそれを正面から受け止めている。祐斗の気持ちをくんだのか、むつは少し恥ずかしそうに笑みを浮かべて頷いた。そんな女の子らしい反応をされるとは思いもしなかった祐斗は、何だかどぎまぎしてしまった。
能力が使えなくなってからというもの、むつの変化はかなり大きい。仕事中であっても、表情はころころ変わるし、よく泣く。それに、以前のような冷たい雰囲気がなくなってきている。その変化が、よりむつを戸惑わせているのかもしらない。祐斗はそんな風にも思ったが、変わっていく事を悪い事だとは思わなかった。
「…とにかく、今は湯野さんと社長を見付けて、凪君の依頼をこなして帰りますよ。むつさんが風邪引いたら、西原さんから小言が来そうです。そうでなくても、最近の西原さんは以前にも増してむつさんが世界の中心みたいになってますからね」
「…う、うん?いちにぃの影響かな?何か仲良くしてるみたいだし、やだなぁ…まぁ、でもそれなら早く行こうよ。管狐が戻ってきて、待っててくれてる」
ちょこんっとむつと祐斗の前に戻ってきて、2人を見上げている管狐は、少し首を傾げている。何故2人がついてこないのか、不思議な様子だった。
「そうですね…行きましょうか」
むつの手をぎゅっと握り返した祐斗は、管狐を追い抜いて先に歩き出した。