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10話
人酔いと乗り物酔いから、ようやく立ち直ったむつは、管狐を胸元に押し込んで駅の改札を抜けた。むつはまだ少し気分が悪いようで、ふらふらとしていた。祐斗が、喫茶店なんかで休もうかと提案をしてみたが、改札を抜けた先には何もなかった。
ロータリーにはバス停があるが、人がバスを待っているわけでもない。それに、ぐるりと山に囲まれているようで、辺りは真っ白でしかない。
「こっちは…本当に何もないっすね」
「無いわね」
人気が全く無いロータリーを見回したむつは、ふうと息をついた。そして寒そうに、手袋をはめてマフラーをしっかりとまいた。
「…手袋してると手の感覚鈍るわね。これも持ちにくいや」
左手に持っている物を、少し持ち上げたむつは、困るなぁとこぼしていた。