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9話
多少なりとも話を聞けたからか、むつは黙々と箸を動かしている。だが、量を食べているようには見えなかった。注文したからには、残さないようにしたいだけのようにも思えた。
「…むつさん、何を考えてますか?」
「雪女ってさ、噂程度でも知られてるなら…何で資料館になかったのかしら?こうして、噂が立つなら…全くのお伽噺じゃないのに」
「怖いから、じゃないですか?」
「確かに…襲われて死人が出てるなら怖いわね。襲ったのは…凪君の幼馴染みだっていう子かしら?」
「かもしれませんね。むつさんだって危なかったんですよね?」
「うん…さて、氷に対して炎…使えないけどね。どう対処しようかしらね?氷柱が当たったら痛いじゃ済まないわね。貫通しそうな気がするわよ」
恐ろしい事をさらっと呟きながら、むつは刺し身を口に入れた。骨切りしてあるとは言え、小骨の多いこれは何だ、という顔をしているが、そこまで気になってもいないようだった。