9話
ふんふんと頷きながら、話を聞くむつの真面目な姿勢に好感を持ったのか、他の客も混じって、代わる代わるに話している。むつは自分の伝票につけるようにと言って、話してくれている男たちに酒を振る舞っている。そのやり方では、どう見ても学生ではないが、男たちは気にした様子はない。それどころか、女の子から1杯奢ると言われ、気をよくしたのか更に話をしていく。
「今日だよ、今日。雪女が出たってな聞いてよ…しかも、それを追い掛けていったのが居たっていうんだよ。変なのはさ、そいつが顔を隠してたっていうんだよ。真っ黒な服だったっていうし」
「あぁ、珍しく死人が出たんだってな。ここ最近、襲われたなんて噂は聞いてたけど…」
「雪女を探してるっていう若い男も居るらしいな。それも、むこうの村の…やつなんじゃないかって」
「あぁ、あっこの村も人じゃないのが、うようよしてるって噂だもんな」
「気味が悪いよ。むこうの村は…」
すっかり酔いも覚めているのか、険しい表情のむつは、男たちの話に耳を傾けていた。むこうの村、と場所の名前まで言いたくないかのような感じからして、特殊な場所なのかもしれない。そこに、もしかしたら颯介も山上も居るんじゃないだろうか、むつはそんな事を思ったりもしていた。