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9話
せっかく祐斗が遠ざけた瓶を掴んで、グラスにビールを注いだむつは、それを呑みながら、ゆっくりタバコを吸い始めていた。だが、一口二口と吸うと、ぎゅっとタバコを揉み消した。そして、ビールをくいっと呑み立ち上がった。お手洗いにでも行くのかと思ったが、そうではないようだ。どこに行くつもりなのかと祐斗は、止めようとしたがむつは、ふっと笑ってとことこと行ってしまった。
「お兄さん、お兄さん」
にっこにこと笑みを浮かべているむつは、ちょこっとカウンター席に座った。急に、見知らぬ女の子が座った事に、声をかけられた年配の男は驚きを隠せないでいる。だが、むつはそんな事は気にもしていない様子だった。
「雪女が、っていうのが聞こえたんですけど…雪女って何ですか?」
「…ん?ん?えっと…お嬢ちゃんは?」
どう見てもお嬢ちゃんなんて年齢ではないが、年配の男からしたら孫でもおかしくない年齢のむつは、お嬢ちゃんと呼ぶような歳に見えたのかもしれない。