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9話
ちびちびとビールを呑んでいるむつの目は、すっかり据わっている。悪い酔い方になっているのではないか。祐斗はそう思って、そっと瓶ビールをむつから遠ざけた。何を考えているのか分からない目付きに、祐斗は不安を覚えながら、すっかり汁の少なくなった鍋の火を止めた。
「むつさん、呑んでばかりじゃなくて食べないと…明日に差し支えますよ?」
くったくたになった白菜や白ネギを器によそって、むつの前に置いた。だが、むつは箸を持つ気配を見せない。妙な緊張感に襲われた祐斗は、こんな時に1人なのは仕事中より不安だと思っていた。
気付けば、店内も何やら静かになっている。来た時に居た常連客らしき男たちも、何やら声を潜めて話をしている。居心地が悪くなってきた祐斗は、落ち着きなくきょろきょろとしてしまっていた。