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9話
「…でも、ここから駅までの間に飲食店はなかったですよね?ってなると…ホテルの近くで探しましょうか」
「…移動範囲狭いわね、あたしたち」
「今日はまだ来たばっかりですから…明日は朝から動けますし、移動範囲は広がりますよ」
「そうね。とりあえず今日は着くのが目的だしね。何か来ただけで、疲れちゃったし、ご飯食べてゆっくりしよっか」
「夜になると余計に…雰囲気出そうなホテルっすけどね」
「あたしらの仕事向きな雰囲気ね。間違っても、旅行では使いたくない」
くすくすと他愛のない話をしながら、駅に向かって歩いていくむつと祐斗。そんな2人に悟られる事もなく、少し後ろを歩いている男が、口元を手でおおいながら目を細めていた。
「…やっぱり来たか」
男は溜め息を漏らしたが、どこか楽しそうな響きでもあった。そして、きょろきょろと辺りを見回すと、車道を横切って渡っていった。