9話
「…収穫なし」
ざっと見ても回ったむつは、そう呟いた。資料館とは言っても、妖やその土地に伝わる言い伝えのような物は何もなかった。
「やっぱり、こういう所には残されない物なんでしょうか?」
「…実在したか分からないからだろうね。ま、分かる人にだけ分かればいいのよ。行こ」
むつのほんのりと寂しそうな言い方に、やはりよろず屋の関わる仕事というのは、普通とは違うんだという事を改めて感じさせられた。こつこつとヒールを鳴らして歩くむつを、祐斗は追い掛けていきすぐに傘を広げた。
「…社長はどう思うかな?」
「え?」
「こうやって、妖っていうのが過去のお伽噺になってるってのを知っててさ…どう思うかなって。遥和さんも火車も片車輪も本当に居るのにさ」
「社長はどうか分かりませんけど…寂しく思うでしょうね。俺だって微力ながらに能力ありますから。俺らもそのうち、過去のお伽噺の一部になるんでしょうね」
「だろうね…さ、ご飯でも行く?」
「そうしましょうか。ちゃんとしたご飯食べないとですもんね」
祐斗の差してくれている傘に入ったむつは、うんと頷いて、何か名物ってあるかなぁと言い始めていた。