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9話
間に合いそうにないかと思ったが、田舎の電車なだけあってか、少しくらいは待ってくれるようで、むつも祐斗も無事に乗る事が出来た。
「…優しいっすよね」
「うん、助かるよねぇ。ただ徒歩で移動出来る範囲に公共物が少ないけど…まぁいっか。1駅で降りるよ」
「降りてからは徒歩っすか?」
「歩こうか…地図通りなら20分くらいよ」
「…土地が広いって事なんすね」
一駅で電車を降りたむつと祐斗は、自動改札もなく無人の駅で、置いてある箱に切符を入れた。
「無賃乗車されないのかしら?」
「そんな人は居ないって事っすね」
人もいい所なんだね、と言ったむつは祐斗に傘を持たせた。だが、むつが買ってきた傘は1本しかない。どうやら、相合傘をするという事のようだ。
「道…分かりますか?」
「んー…あっちかな?」
むつが携帯を見せながら歩き出そうとすると、祐斗は腕を掴んで引き留めた。
「反対だと思いますよ」
「…かな?」
方向音痴なむつを引っ張るようにして、祐斗は携帯の地図を見ながら歩き出した。