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9話
コートを羽織っての服装は可愛らしいが、手にしている細長い物が何なのか分かっている祐斗は、端から見るとむつは物騒な人物のように思えていた。ましてや、この雪の中だ。見回す限り雪ばかりで、センチメンタルになりやすそうな雰囲気の周囲の中だから余計にそう見えるのかもしれなかった。
駅員に運行状況を聞いて戻ってきたむつは、何やら笑顔だった。その笑顔が自然すぎて、祐斗もつられたように笑みを浮かべた。
「遅れるかもしれないけど、この様子なら停まる事はないだろうって。流石は雪国だよね」
「あ、そうなんですか。なら行きましょうか」
「うん。あ、傘買ってくる」
祐斗に小銭を渡して、切符を買うように言うと、むつは駅の隅っこの売店でビニール傘を1本買った。
「祐斗、早く!!電車来るっぽい‼」
急かされた祐斗は、2枚の切符を駅員に見せてむつと共にホームに向かって走っていった。地元民ではない2人を、駅員がにこにこと見送っていた。