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9話
「…あ、ありがとうございます」
むつは祐斗に鞄を持たせたまま、ゆっくりと奥の方に進んでいった。じっとりとした絨毯は、古くさい上に掃除もしてないように思えてならない。
「む、むつさん…」
「部屋を見て…アウトなら出ていこう」
こんな所は嫌だと、祐斗の顔が言っている。むつもそう思ったが、近くにホテルはないし、こんな状態でも営業出来ているという事は、客が来るという事だ。大丈夫、と呟くように言いながら暗い廊下を進んで行き、ぽっかりとドアを開けているエレベータに乗り込んだ。
非常灯しかついてないようなエレベータは、2人までしか乗れないような狭さがあった。途中で止まったり、重量オーバーで落ちたりしないか、不安で堪らない2人は、エレベータが無事に階につくと、そそくさと降りてほっとしたように息をついていた。