545/1090
9話
「…す、すみませーん…先程、予約した宮前と申しますが…」
薄暗い室内に、じっとりとした絨毯を踏み締めて、カウンターまで行ったむつは誰も出てこないからか、おそるおそるといった様子で声をかけた。
「…さ、寒気がしますけど」
誰かが出てくる気配はないが、祐斗は潜めた声でむつに話し掛けた。むつも同感だと、こくこくと頷いている。
「あたしも…何か、ちりちりする」
「やばい所じゃないっすか?」
「…でも他にないわよ?この近く」
「だからって、こんなお化けや」
祐斗が慌てて口を閉じたのを見たむつは、そっと辺りを見回した。いつから居たのか、カウンター越しに老婆が立っている。足音もさせずにやってきたのかと思うと、これはこれでぞっとする。
老婆は無言でむつをじっと見ている。気圧されるように、むつは少し後退したが、何も悪い事をしたわけでもない。