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9話
「むつさん、むつさん…ここっすか?」
「あ、うん?ここ…ここぉ!?」
地図を見るでもなく、ホテルは駅のすぐ目の前にあった。祐斗は行き過ぎようとしていた、むつの腕を掴んで引き留めた。駅の近くなのは分かっていたが、こうも近いと思わなかったむつは、ほっとしたような顔をしたが、ホテルの外観を見て、嘘だぁと声を上げていた。
「安い所でいいって言いましたけど…ここ、大丈夫ですか?」
「………」
ビルの間に挟まれるようにして、ひっそりと建っているホテルは、入り口からして薄暗い。細長い作りなのかもしれないが、知らなければ通り過ぎてしまうほどに、ひっそりとしている。
「むつさん?」
「…あ、雨風しのげれば…何でもいいよ、ね?」
「良くないっすよ。これは…先客が多そうな外観してますよ?それに、絶対にベッド縦に並んでますって」
「寒くない所で寝れたらおっけーだよ‼」
大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせるようにして、むつは祐斗を引っ張って中に入っていった。