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9話
安いビジネスホテルの予約を入れたむつは、電車に揺られながらうーんと首を傾げていた。
「どうしました?」
「荷物だけ預けて、って思ってたけど…着く頃にはチェックインの時間だなって思ってさ」
「…意外と移動に時間かかってますし」
「遠いのは分かってたけどね…到着時刻とかも、きっちり調べて…っても無駄だわね。乗り換えはスムーズにきてると思うから」
「そうですね。焦っても仕方ないですよ。今日は到着するのを目的にして、明日から動きましょう」
「うん。折角だし、美味しい物食べようね」
「観光じゃないんですから…」
「分かってるって。でもさ…緊張感ばっかり持ってても疲れちゃうでしょ?だから、今日は美味しい物食べて、何か掴める物があったらラッキーくらいでさ」
口調とは裏腹に、むつの表情は真剣だった。緊張感ばかりでは疲れる、というのは自分自身に言い聞かせている事なのかもしれなかった。祐斗は、そうですねと頷いて、電車の揺れに身を任せておいた。