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9話
山上の不安通り、むつは祐斗と共に近くまでやってきていた。新幹線の中で仮眠を取り、食事をしたからか、むつの目はばっちりと開いている。うっすらと化粧をしている顔は、きりっとしていて凛々しく、頼もしく見える。むつの仕事モードの顔を見た祐斗は、そんな凛々しい顔を眩しそうに見ていた。
「一先ず無事に到着だね」
「はいっ‼」
「…なぁに?その嬉しそうな顔は」
新幹線を降りて、きちんとゴミを捨てたむつは、やけに嬉しそうな笑みを浮かべる祐斗の頬を、むにゅっと摘まんだ。祐斗は、その手を振り払うと摘ままれた頬を撫でた。
「…やっと、むつさん目覚めたなと思ったら、ほっとしたんです。西原さんにも後で連絡しときますよ。むつさんお目覚めですって」
「余計な事はしなくてよろしい。行くわよ」
えへへと笑った祐斗は、颯爽と歩き出したむつを後から追い掛けた。そして、かつかつと鳴っている足元を見て、むつがヒールのある靴をはいている事に気付いた。やはり、朝はかなり寝惚けていたのかもしれない、と祐斗は溜め息を漏らした。