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9話
灰皿にタバコを押し付けて消した山上は、のっそりと立ち上がった。値段の通り、部屋は簡素でお世辞にも綺麗とは言えない。だが、山上にとっては風をしのいで横になれればいいだけだったのだから、どんな場所でも構わなかった。それに寒さをしのげるだけで、有り難かったのだ。
何かを持ってきているでもない山上は、コートのポケットにタバコの箱を落とし入れ、携帯と財布がある事を確認すると部屋を出た。
泊まっていた安いビジネスホテルを出た山上は、ぶるっと身体を震わせた。ぼろくても暖房はきいたし、すきま風もなかったら、外の寒さがどれほどの物なのか、すっかり忘れていた。
コートのボタンを上までとめた山上は、はぁと息をついた。吐いた息は、タバコの煙のように、くっきりと白くなっていた。