533/1090
9話
むつと祐斗が向かっている事などつゆ知らず、山上はビジネスホテルの一室に泊まっていた。2人に何も言わずに、出社もせず、むつからの電話を避けるように携帯の電源も落としていた。
どれだけ心配させているのかは、何となく察しはついていた。ましてや、颯介の事を心配して、落ち着かなくなっている2人を、黙って置いてきているのだ。十分に悪い事をしているとも思っていた。だが、山上もただ颯介からの連絡を待っているというのが、どうにも出来なかったのだ。
自分のすべき事でもなければ、社長として会社を預かる者のする事でもない。それほど無責任な事をしているとは、重々承知の上だ。むつからは恐らく、いや、確実に烈火のごとく怒られるだろう。それに、最近少し小生意気な祐斗からの小言も降ってくるに違いない。だが、それは自分がよろず屋に戻れたらの話だ。
テーブルに置いていたタバコに火をつけ、煙をゆっくり吐き出しながら山上は、自嘲めいた笑いを浮かべていた。