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9話
新幹線の乗り換えをすると、むつは西原が買って渡してくれたビニール袋から飲み物を取り出した。むつが弁当に手をつける気になれない事を見越してか、弁当の他にチョコレートや小袋の菓子も入っている。むつは菓子の袋を開け、ぼりぼりと噛んでいた。
「…ご飯の方がいいと思いますよ?」
「祐斗、食べといたら?折角、先輩が買ってきてくれたんだし」
「俺は先に頂きましたけど…」
「まだ入るくせに。食べといて。今回は、祐斗しか頼れないんだからさ」
そういう頼られ方は違うと思いつつも、西原が買ってくれたのを捨てるのも忍びない。西原にはただでさえ、お世話になっているのだから。祐斗はまだまだ腹に余裕がある事もあって、残っている弁当を開けた。
「…本当に食べちゃいますよ?」
むつの方に弁当を差し出すと、ちらっと弁当を見て、少し悩むようにして黙った。
「ちょっと貰う…」
「ですよね」
にっこりと笑った祐斗は、弁当をむつの方に差し出した。西原が選んだものだ。むつの好物の入っている物を、選んできたに決まっている。祐斗はそれを分かって、わざとむつに見せたのだった。