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9話
コートで頭まですっぽりとおおったむつは、いつの間にか眠っているようで、微かにだがコートが上下している。祐斗は、西原が買ってくれた弁当を有り難く頂戴していた。そして、腹が満たされたからか、祐斗もいつしか眠りについていた。
どのくらい眠ったのだろうか、肩を揺らされて祐斗は目を覚ました。いつから起きていたのか、むつはすっかりいつものむつになっていた。駅で会った時には、化粧もしていない感じだったが、今となっては軽く化粧も済ませてあるようだった。それに、微かながらタバコの臭いもしていた。祐斗を起こさないように、タバコも吸いに行っていたようだ。
「次が終点だよ。そしたら乗り換えだね」
「新幹線の乗り換えって初めてですよ」
「あたしも…でも、ホームは同じらしいから大丈夫でしょ。少し緊張するけどね」
身の回りを片付けたむつの横顔は、真剣というよりも少し怒っているようにも見えた。