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9話
「あ、むつさー…」
先に着いていた祐斗は、まばらな人混みの中で、ふらふらと歩いてくるむつを見付けると、手をあげて声をかけようとしたが、隣でむつの手を握っている西原に気付くと、慌てたように口を閉じた。だが、すでに声は聞こえていたようで、西原が片手をあげていた。そして、むつに何事かを言っている。遠目で見ていると、カップルというよりも親子のような雰囲気だった。
「おはよう、祐斗君」
「おはようございます…って、むつさん?」
「…おあよう…」
「起きれなかったんですね?」
「寝付けなかったみたいなんだよ。湯野さんと山上さんの事が気になってたみたいでさ」
「そうなんですか…俺とむつさんで本当に大丈夫でしょうか?俺…不安ですけど」
「3人寄れば文殊の知恵っていうだろ?」
「…1人足りませんけど?」
「むつの胸元に居るだろ。大丈夫だろ、なるようになる」
「…俺がしっかり頑張ります‼」
「あ、あぁ…むつを頼むよ」
眠たそうで、人の話など聞いてなさそうなむつを見た祐斗が、頑張ると言うと西原は、困ったように笑うだけだった。