512/1090
9話
その一言が、とどめのようにしてむつの能力は、息を潜めるようにして表には出てこなくなった。それを言ってしまったのが、西原だったから尚更むつには辛い事だったのだ。
嫌味や拗ねているではなく、悲しげな顔をしているむつを見た西原は、自分の軽率な一言がどれだけむつを傷付けたのかを、ここにきて本当に痛い程に感じていた。傷付けたのが自分なだけに、西原には慰めの言葉がをいくら言っても、意味がない事は分かっていた。それに、言葉が思い付きもしなかった。ただ、ただ悪い事をしたなという思いだった。
「…気にしないで欲しいなんて言えないからな。俺が言ったんだし…でも、むつの事は…」
「…いい、やめて」
「むつ…」
「気持ちは変わるもの、だよ…今は何を言われても、薄っぺらい物にしか思えないかも」
深々と溜め息をついたむつは、食器を片付けて、水につけるとすぐに戻ってきた。