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9話
女々しいとは思うも、西原はそう思わずにはいられなかった。自分の方が年上で、男でありながらこんな事を言えば、むつを困らせるとは思っていた。今回は、むつ自身の事ではない。だが、またいつ戻るか分からないまま、むつが行ってしまう。それが、嫌だった。
「………」
むつが黙ったままでいると、西原は溜め息を漏らした。連絡もせず、夜いきなり訪れたあげくに、女々しい事を漏らして相手を困らせる。こんなにも器の小さい自分が惨めにもなっていた。
「悪い…帰るよ」
「待って」
立ち上がった西原に手を伸ばしたむつの指は、ベルトを通す所に引っ掛かったせいか、西原は尻餅をつくようにしてソファーに引き戻された。
「あ…ごめん」
「…強引な引き留め方だな」
「そんなつもりじゃなかったんだけど…」
ごめーんっと笑いながらむつが言うと、西原もつられたように笑みを浮かべた。