5/1090
はじまり
「…管狐、俺は高校を出たら家を出るよ。お前、一緒に来てくれるか?」
男は足を止めずに、胸元から顔を出している管狐に声をかけた。すると、管狐はするすると出てきて男の肩に上った。そして、すりすりと頬を押し付けた。
「そっか…良かった。なら、なぎを見付け出さないといけないな。あいつが跡取りになるんだ…そしたら俺は…俺はどこに行こうかな?どこへでも行けるか」
くすくすと男は楽しそうに笑うと、すっと目を細めた。柔和な目元は一転して、険しくなっていた。管狐は特に気にする様子はないのか、男の頬を短い前足で、とんとんっと叩いた。
「なぎが居たのかい?」
管狐はするすると肩から腕をつたって、雪の上に降り立った。足が短く、ぼすっと雪に埋まってしまいそうではあるが、沈み混む事はない。まるで体重など、微塵もないかのようだった。
「…案内、頼むよ」
男の方を見ている管狐は、小さな頭を上下させて分かったと言うと、雪の上をとっとっとっと走り出した。男はそれを追い掛けて、ぼすっぼすっと雪の中に埋まった足を引き抜いては、踏み出してを繰り返した。