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9話
誰かが来るような連絡はなかったし、夜だから何かの業者だろうか、怪しげな勧誘だろうかと、身構えつつエントランスの映像を確認した。だが、そこには見知らぬ人ではなく、よく知った男の顔が映っていた。
「…何してんの?」
『いや…その…』
受話器を持ち上げて、むつが言うと、画面越しに男は、がりがりと頭をかいていた。困った時、照れた時にするその癖は昔から変わらないな、と思った。
「まぁ…いいや、どうぞ」
『悪いな…』
むつがオートロックを開けると、男は開いた自動ドアから入っていった。それを見届けてから、むつは受話器を置いてすぐにキッチンに行くと、電気ポットは水を足してスイッチを入れた。