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2話
柔らかく暖かい物が、すりすりと頬に当たる感触に気付いた颯介は、うっすらと目を開けた。続けて、ぺちぺちと何かが頬に当たっている。何なのだろうか。颯介はそんな疑問を感じながらも、うとうととまた目を閉じた。だが、それを阻止するかのように、鼻先に何かが刺さるような痛みを感じると、咄嗟にそれを手で払った。
「いったいなぁ…」
手に当たった物は何もなく、颯介は鼻先をさすりながら起き上がった。何かをしてくるのなんて、この家では1匹しかいない。
「管狐?何するんだい?」
鼻先が少しぼこぼこしている事に気付き、颯介は管狐を怒ろうと部屋の中を見回した。だが、隠れてしまったのか姿は見えない。怒る事を諦めた颯介が、再び横になった時、がしゃんっと大きな音がして颯介は飛び起きた。
「な、何をしてるんだ?」
きょろきょろと辺りを見ると、床には目覚まし時計が落とされていて、その上に管狐が乗っている。
「お前、今日はどうしたんだ?」
管狐は細い身体には似合わず、ふかふかの尻尾で、時計をぱしぱしと叩いている。見ろ、という事のようだ。颯介は渋々、時計を見て、はっとした。




