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8話
「むつ」
「………」
冬四郎だけがむつの方に行き、声をかけると不機嫌そうな顔をしたむつは、ゆっくりと冬四郎の方を見た。祐斗であれば、そんな不機嫌丸出しの目を向けられれば、怯むところだが冬四郎は慣れた物で平気な顔をしている。
「…悪いな。あちこち聞いてみたんだけど山上のマンション知ってる人は居なかったんだ。今の所は事件でもないから…大っぴらに個人情報を聞く事も出来なかった」
「やっぱり…」
「何だ、分かってたのか?」
「薄々は…」
よっこらせとむつの隣に座った冬四郎は、むつの顔を覗きこむように見た。不機嫌そうな顔をしているが、今にも泣きそうでもある。心配で仕方ないのだと、その顔を見た冬四郎にはすぐに分かった。人に心配かける分なのか、むつもかなり人の事は気にかけている。冬四郎は、ぽすんっとむつの頭に手を置いてぐりぐりと揺らすようにして撫でた。