8話
ろくに吸わずに短くなったタバコを灰皿に捨てて、むつはもう1本箱から取り出した。片手で蓋を開けて、軽く上下に揺すって1本を出して、そのままくわえるむつの姿は、およそ女の子らしいとは言えないかもしれない。だが、その慣れた手つきといい、自然さといい祐斗は見とれていた。
「なぁによ?吸いすぎって?」
「いや、まぁ…かもしれないっすけど…そうじゃなくて、むつさんはかっこいいっすね。宮前さんとか西原さんのそういう仕草もかっこいいっすけど…むつさんがするとまた違うかっこよさが…」
「…憧れなんかでタバコなんかに手出しちゃダメよ?」
「むつさんは何がきっかけで?」
「うーん…悪い事=かっこいい=タバコって感じ?まぁまだ若かったしね。家出繰り返してた頃の話よ」
「…あー典型的なあれっすね」
「ほっといて‼お兄ちゃんたちの影響もあったんだってきっと!!」
「宮前さんの姿を見て育つと、むつさんみたいになれるって事っすか?」
「…貸してあげよっか?」
「遠慮します。緊張しそうなんで」
「お兄ちゃん…変な所でノリがいいっていうか、本当に真面目だから…1日レンタル兄貴してくれると思うよ?むしろ、喜んでしそう」
くすくすと笑いながら、むつは換気扇に向かって、ふーっと煙を吐き出していた。