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7話
ドアを開けて入ってくる気配もなく、山上は自らドアを開けてやろうかとも思った。もし、足音の主が入るのを躊躇っているなら、そうしてやるのが優しさかもしれないが、山上はそうしてやるつもりはなかった。本当はそうしてやりたいが、それでは甘やかす事にもなりかねない。今は、少し厳しいくらいがちょうどいいかもしれない。山上はそう思っていた。
ぎしっぎしっと椅子をきしませながら、ドアが開くのを待っていると、ととっと小さな音がした。何の音かと目を向けると、机の上にするっと細長く、ふさふさの毛をした、見慣れた物がちょこんっと座っていた。
「…お前だけか?湯野ちゃんどうした?」
話しかけると、机の上に座っている管狐がちらっとドアの方を見た。どうやら、まだ躊躇っているようだ。山上は仕方ないなと呟くと、のっそりと立ち上がった。何だかんだと、甘やかしすぎかとは思ったが、どうにも甘くなってしまう。それは年齢差のせいだと、山上は思う事にしていた。