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7話
むつと祐斗がビルから出ていく姿を、窓からしっかり見ていた山上だったが、むつが然り気無く振り返ったのを見逃しはしなかった。窓から見ていたから、目が合った。だが、むつは何事もなかったかのように、祐斗と人混みに紛れて見えなくなった。
強引に追い出したせいか、何かしら不満に思っているのか、気付いているのか分からない顔ではあった。山上は苦笑いを浮かべつつ、カーテンを閉めた。むつの事だから、人混みに紛れて姿をくらまして、戻ってきそうな気もしたが、どうやらそんな事はなさそうだった。
キッチンから灰皿を持ってきて、堂々と室内で吸い始めた山上は、それでも気を遣ってなのか、少しだけ窓を開けていた。吹き込んでくる風は冷たいが、大して気にはならなかった。
ちょうど1本吸い終えそうな頃を見計らうように、足音がゆっくりと近付いていた。その足音は、ドアの前でぴたりと止まった。