7話
冬四郎が帰った後、むつは珍しくもキッチンに行かずにソファーに座ったままで、タバコをくわえていた。だが、くわえているだけで火をつける素振りはない。唇で挟み、上下に揺らしている。
タバコ臭くなるのが嫌だから、と基本的に事務所内では換気扇の下でのみ喫煙としているが、来客によっては灰皿を用意したりもしている。だから、常にそうしなくてはならない、という決まりもない。祐斗は、むつの為に灰皿を持ってこようとか悩んでいた。山上も何やら考え込んでいるのか、タバコの箱を掴んではいるが、吸おうとする気配はない。
どことなく、居心地の悪い雰囲気に耐えられなくなった祐斗は、冬四郎が使ったマグカップを片付け、むつと山上のコーヒーをいれ直す為にキッチンに入っていった。
「…颯介さんを1人にするんじゃなかった」
「あぁ…お前よりも単独行動一直線な男だったみたいだな。今日中には戻ってくるといいけどな」
「社長の力で何とか出来ないの?」
「…出来てたら待ってねぇよ」
「それもそうよね。はぁ…管狐の包帯でも変えてあげよっかな…少し血が滲んでて痛々しいし」
「そうしてやれ…」
頷いたむつは、救急箱を取りに祐斗の居るキッチンの方に向かっていった。