1話
コートを羽織って事務所の鍵を閉めたむつは、エレベータに乗り込んで待っていた3人と合流した。
「お前…本当に厚着だな。つか、その上着は初めて見た。新調したのか?」
「寒いから買ったの。いいなーって思ってたけど、なかなか手が出なくて…柄じゃないってのもあるけど。でも、こんな天気だし買っちゃえーって…変?」
むつの上着が新しくなっている事に目敏くも気付いた西原が言うと、むつは手を持ち上げ首を傾げた。むつが膝丈もあるコートでさえ珍しいというのに、フードと袖の部分には、もこもことしたファーがついている。見ている分にも暖かそうな物だ。
もこもことしたファーで手元も少し隠れていて、それを口元に当てるような仕草に、左右の三つ編みだ。少し幼くも見えるが、可愛らしい。西原はむつをまじまじと見ていた。だが、何の反応もないと分かると、むつは冬四郎の方を向いた。むつも女の子なのだ。新調した上着が似合っていると、言って貰いたいものだ。
「似合っているぞ。可愛いな」
「本当っ!?ありがと」
ふふっとむつは嬉しそうに笑いながら、1階に着き開いたドアから出ていく。その後に冬四郎が続いていき、むつに並んで歩いていく。
「西原さん…すぐに誉めてあげないと。むつさんは、西原さんに意見を求めたっていうのに…」
「…仕方ないだろ。あのコートであの仕草は可愛すぎる。見てる場合じゃなかったか」
「俺は朝1で言いましたけどね。むつさんが、どう?って見せてくれましたから」
「…何でそんなにすぐ誉め言葉が出てくるんだ?本当に思ってるのか?」
「本当に思ってますよ。意外過ぎでしたけど…」
祐斗と西原はそんな話をしながら、むつと冬四郎を追うようにして、ゆっくりと歩き出した。




