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7話
結局、むつからの一口を貰わなかった山上は、自分の知らない所でのむつと祐斗の様子が少し知れた事が面白いのか、2人の様子を観察するように見ていた。そして冬四郎が、祐斗を弟みたいだと言っていた理由も分かる気がした。無邪気に、美味しいと喜ぶ顔は年齢よりも幼く見えていた。
「社長、最後の一口だよ?本当にいらない?」
「俺のもですけど…食べかけを、ってなるのは失礼とは思うんですけど…」
最後の一口とは言っても、一口には大きすぎるくらいを皿に残してむつと祐斗は、本当にいらないのかと聞いている。むつと祐斗なりに、気を遣っているのかもしれない。冬四郎が横で、山上の腕を肘でつつくと、山上は観念したかのように笑った。
「この歳で…若い子から、あーんってされる事ほど、恥ずかしい事はねぇな…むつ、祐斗。一口くれ」
「うんっ‼」
ぱっと嬉しそうな顔をしたむつは、大きめに切ったタルトをフォークに乗せて、山上の口の前まで持ってきた。少し躊躇うような山上だったが、それを口にして照れたように笑っていた。