6話
冬四郎と山上はコーヒーだけだが、折角だからとむつは紅いものタルトとコーヒー。祐斗はプリンとカフェオレを頼んだ。注文した物がテーブルに置かれると、むつと祐斗はとたんに嬉しそうな顔をした。
「…むつと祐斗はうまそうに食うよな」
「そうですね…」
「一口あげようか?美味しいよ」
欲しいと言わずとも、フォークですくったタルトを目の前に出された山上は、少し身を引いた。そんな風に、され慣れていないのかもしれない。慣れている冬四郎は、行き場のないタルトを不憫に思ってか、むつの手を取ると自分の方に向けた。そして、ぱくっと口に入れた。
「…お、意外とうまいな。もっとタルトがぱさぱさかと思ったけど、さっくりしっとりって感じだな」
「うん。美味しい…でも、お兄ちゃんじゃなくて、社長にってしたのに」
「山上さん引いてるからな」
「お前ら…いっつもこんな事してるのか?」
「してますね。むつは誰にでもしてますよ」
「うん、してる。祐斗とも颯介さんともするし、菜々ともするよ?」
「してますね。よく、これ美味しいって一口貰ったりしてますけど…社長は初めてですか?」
「…初めてだ」
むつは、へぇと言いながら祐斗にも一口食べさせている。祐斗も照れるでも引くでもなく、お返しにとむつにプリンを一口食べさせていた。