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6話
「まぁ何でもいい。それで?何だって、湯野さん抜きで来たんだ?湯野さんに見て貰った方が確実だろ?」
「………」
「その理由は言えませんか?」
その問いかけは、むつではなく山上に向けられた物だった。山上は腕を組んだまま、むっつりと黙っている。
「言えないなら協力はここまでです。俺も湯野さんの気持ちはよく分かるんで、出切るだけ協力はしたかったんですが…」
残念そうに冬四郎が言うと、湯飲みを置いたむつが溜め息を漏らした。そして山上を見ると、山上もやはりむつと同じように、困った顔をしていた。
「みや、狡くねぇか?その情に訴えかけるような言い方は。お前もなかなかの演技派になったんじゃないか?」
「そんなつもりは…ただ、俺にも妹が居ますからね。突然居なくなったら探しますよ、それこそどんな手を使ってでも。ましてや…何か危険がありそうな気配がしているなら尚更」
むつが拐われた時、自分より身分が上の兄をも使って、顔見知りの妖と協力して、むつを探そうと懸命になっていた冬四郎を、自分の目で見ていただけに山上は、頷くしか出来なかった。