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6話
むつは携帯を片手にキッチンに入っていった。換気扇をつけているのか、話し声は全然聞こえてこない。ただ、むつの声がいつもより低いような気がする。
キッチンから出てきたむつは、無表情のようなどこか怒ったような顔をしていた。ひんやりとした横顔は、仕事の時に見せるそれだった。だが、今は少し違う。
ちらっと山上を見たむつは、そそくさと上着を着始めた。ブルーライトカットだという眼鏡は外して、机に置いてある黒ぶちの眼鏡をかけている。
「あたしも自由こ「どこに行く?」」
「え?」
引き留められる前に出ていくつもりでもいたのか、がしっと山上に腕を掴まれたむつは惚けたような顔をしていた。
「え?じゃねぇよ。お前は、どこに行くんだって聞いてるんだよ。何だよ、あたしも自由行動って」
言い切る前に山上の言葉が被せられていたのに、むつの声はしっかりと聞こえていたようだった。