335/1090
6話
祐斗が鞄を置いて、自分の分のコーヒーをいれにキッチンに行くと、むつはからからと椅子のキャスターを鳴らして、山上の隣に行った。
「移動を面倒くさがるな」
「祐斗に話す?」
「…いや、余計に心配させたり身構えさせるのもな。あいつは、お前以上に顔に出るから黙っとけ、今はな」
「分かった」
こくりと頷いたむつは、祐斗が入っていったキッチンの方を見ていた。その横顔からは、何を考えてるのか分からなかった。
「…あれ?どうしたんすか、むつさん」
マグカップを片手に戻ってきた祐斗は、むつが山上の隣に、それも椅子ごと移動しているのを見て、くすりと笑った。
「最近、仲良しっすよね。ヒーターの前にも一緒に居ましたし。むつさん、本当に人が恋しいんですか?」
「…うるさいわよ。ほっといて」
「はいはい。で、どうします?湯野さんに連絡してみますか?」
壁掛けの時計を指差した祐斗も、やはり颯介がまだ来ていない事は気にしているようだった。