6話
タバコを吸い終えたむつもコーヒー片手に、事務机の方に行った。壁掛けの時計を見ると、始業時間までまだ30分もある。むつが30分前に来る事があっても、山上が30分以上も前に来るのは珍しい。
「…何で早く来たの?」
「あ?何となくだ、何となく。むつは?」
何となくで、こんなに早く来るはずないと思いつつも、むつは深くは聞かない事にした。
「えー?昨日、お兄ちゃん所に泊まって、一緒に家出たから、かなり早く着いたの」
「お前、いい加減に兄離れしろよ?」
「無理。お兄ちゃんが1番がいい」
「湯野ちゃん所とは大違いだな」
「…かな?でも、凪君は何だかんだ颯介さんを頼って出てきてるんじゃないかしらね」
「そうだろうけどな。湯野ちゃんも何だかんだ、弟が可愛いみたいだよな」
「うん。余程、憎み合ってない限りは、そんなもんじゃないのかしら?きっと、どっちも相手の事は大切に思ってるわよ」
「宮前家程じゃないにしろな」
「うちは…仲良すぎるから」
冬四郎以外の、3人の兄たちの顔を思い浮かべたむつは、今度はいつ5人で集まれるのだろうかと、それは後何回あるのだろうかと、そんな事をちらっと思っていた。