1話
「…知らないのか。まぁいいや、続けろ」
「うん。だからね、恋人居るか居ないかも知らないし、颯介さんの事ってあんまり知らないなって」
「で、俺がむつさんと湯野さんはどっちが先に入社したのかを聞いたら湯野さんだって聞いたんですけど…」
「そう。颯介さんの方が先に社長と働いてて…でも、2人の付き合いがどのくらい前からなのかは知らないし。入った頃にね、颯介さんとも社長とも色々話したよ。勿論、今でも沢山話はする。くだらない事も、真面目な事もプライベートな事も…でも、颯介さん教えてくれなかったの。はぐらかされたり、逆に聞き返されたりしてたなって…」
「そうなんですよね、俺も入って1年半くらいになりますけど…むつさんの事よりも、湯野さんと社長の事って全然知らなくて。だから、湯野さんが元気ないのも気になっちゃって…」
「聞いたらいいじゃないか?湯野さんに。谷代君が聞きにくいなら、むつが聞けばいいだろ?お前は人が言いにくい事を、わりとずけずけ言うくせに」
「…まぁそうなんだけどさ。聞いても、はぐらかされると思うんだよね」
「で、その湯野さんは?今日は休みか?」
「ううん、早退した」
コーヒーを一口飲み、マグカップをテーブルに置いたむつは溜め息を漏らしていた。




