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6話
冬四郎の作ってくれた朝食。と言っても、トーストの上にたっぷりとイチゴジャムをぬった物と、コーヒーだったが。
「…意外。イチゴジャム家にあるんだ」
「うるさい、たまに食べたいんだ」
甘い物はほとんど口にしないような冬四郎が、同じ様にイチゴジャムたっぷりのトーストにかじりついているのを見ていたむつは、不思議な物を見るような目付きだった。そんなむつを冬四郎は、どうしたものかと思いつつ、気にしないようにしていた。
何とかトーストを食べきったむつを急がせて、冬四郎は駅のホームでむつを見送った。見送ってやるつもりだったが、満員電車の中でむつの姿は人波に押されて、あっという間にどこに行ったのか分からなくなった。一緒に居ても居なくても、どこに行ったのか分からなくなるのか、と冬四郎は苦笑いを浮かべ電車が見えなくなると、自分の乗る電車のホームに立った。