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6話
ぷうっと頬を膨らませたむつだったが、冬四郎がテレビから視線を外さないと分かると、仕方なさそうに髪の毛を乾かし始めた。そんなむつを横目に、冬四郎はこっそりと笑っていた。してやれない事ではなかったが、そろそろ本当に妹離れをしなくてはならない。むつにも兄離れをさせて、いかなくてはならない。冬四郎はちらっと西原の顔を思い浮かべ、ひっそりと溜め息をついていた。
「ねー。いっつも仕事の後はこんな感じ?」
「こんな感じってのは?」
「テレビ観てぼーっとしてるの?」
「…悪いか?」
「悪くない。普通だね」
「お前は俺に何を求めてるんだ?」
「んー?お兄ちゃんっぽさ」
「お兄ちゃんは仕事終わりに何するんだ?」
「知らない」
首を傾げるむつを見ながら、冬四郎も首を傾げた。このよく分からない会話は、いったい何なのだろうか。冬四郎はそれを気にしたものの、むつは何事もなかったように、また髪の毛を乾かす作業に戻っていた。