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1話
冬四郎と西原の手を保冷剤かわりに、クールダウンを済ませたむつは、すっかり汗も引いたようだった。だが、寒いとも言わない。動いた後だからか、丁度良い体温を保っているという事だろう。
「…で?何だって呼び出したんだ?」
「あ、そうそう。あのね、お兄ちゃんって社長との付き合い長いでしょ?あたしが入る前って、ここ何人働いてる人が居たの?」
コーヒーを片手に冬四郎は、眉間にシワを寄せながら首を傾げた。
「付き合いは長いけど…お前が入る前にそんなに関わってないからな。むしろ、ここに来るようになったのも、お前が入ってからだ。何か変な事が起きたら山上さんに相談はしてたけど…山上さん以外の人と会った事なんかないな」
「…先輩も?」
「そうだな。夏にお前が山上さんと来たのにはびっくりしたくらいで…まさか、そんな会社としてやってるなんて知らなかったんだ。てっきり、探偵事務所だとばっかり思ってたからな」
「俺も俺も。個人でやってるからな、なんて言って…刑事辞めたってなれば探偵事務所だなって思ってたな」




