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6話
むつがエレベータを降りると、来るのを 待ち構えていたかのように冬四郎が部屋のドアの前に居た。
「何だって急に…」
「うーん…颯介さんと弟さん見てたら、お兄ちゃんに会いたくなった…かな?」
「羨ましくなるくらい仲良し兄弟だったか?」
「…逆」
そうか、と頷いた冬四郎はドアを開けるとむつに入るように促した。むつはすぐに靴を脱いで、奥に入っていく。冬四郎は、少し溜め息を漏らしたが嫌そうな顔ではなかった。
「…寒かっただろ?風呂使うか?湯は溜めてないけどな」
「着替えないもん。いい…」
コートも脱がず、鞄も置かずのままでむつはぺたんっと床に座った。冬四郎は風呂上がりだったのか、髪の毛はしっとりと濡れているし、シャボンの清潔な香りが漂っていた。