はじまり
「なぎ、なーぎー?」
男は目的としていた場所が近くなると、口の端に手を添えると更に大きな声を出した。声変わりをした低い声が、辺りに響いてこだましている。いくら名前を呼んでも、返事はない。男はやはり、ここではないのかもと焦りを感じていた。すでに辺りは暗くなってきていて、風も出てきている。遅くなればなるほど、自分の身も危なくなってくる。だが、男は雪を掻き分けて進んでいく。
葉を落とした木の枝に積もった雪の重みで、枝がしなっていて、あちこちでどさっどさっと雪の塊が落ちてきている。男は、それに当たらないように気を付けつつ、息を切らせながら歩いていく。
休みの日ともなれば、何度も来た場所。そこには周りの木々とは、比べ物にはならない大きさの木が1本ある。そこに男は、何度も来ていた。昔は1人で、最近では今探している者と2人で。
「居なかったら、他に…どこを探せばいいんだ?なぁ管狐。思い当たる所はありそうか?」
独り言のように言っているが、男がゆるめたマフラーの隙間からは、にょろりとした細長い綱のような物が出てきていた。それの顔はまさしく狐だが、胴体は長い。