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1話
「………」
西原の手をそっと放して、むつは立ち上がると冬四郎の前に行った。そして、冬四郎の顔を覗き込むようにして見た。
「怒ってる?」
「怒ってないよ」
ふっと笑みを浮かべた冬四郎は、そうっとむつの頬を撫でた。
「あっ‼お兄ちゃんの手も冷たっ‼もう…ごめんね、寒いのに呼び出しちゃって」
冬四郎の両手を掴んだむつは、自分の頬にぐいぐいと押し当てた。冬四郎のひんやりとしていた手は、むつの火照った顔の熱が伝わってか、ゆっくりと暖まっていった。
「お前、相当な筋トレしたな?顔熱いぞ」
「うん。何かね、身体が暖まってきたら、エンジンかかってきた気がしてね。楽しくなっちゃってさ」
「あ、あぁ…」
どことなく得意気な顔をするむつを見て、冬四郎は仕方ないなと呆れたような笑みを浮かべるだけだった。




