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1話
2人の視線の先には、髪の毛を床につけて足を壁につけているむつの姿があった。ぺろんっとシャツがめくれて、白い腹が見えている。壁を使って逆立ちをしているむつの姿に、冬四郎も西原もすぐには何も言えなかった。だが、衝撃から冷めるのが早かったのは、西原の方が先だった
「むつ…?何してるんだ?」
冬四郎と西原に気付いたむつは、へらっと笑ったものの、すぐに笑みを消した。額には汗を浮かべて、ふーっと息をついた。そして、ゆっくりと腕を曲げていく。
「あー…あと2回で30回なのに…腕が、ぷるぷるしてもたない…む、無理だぁっ‼」
腕を伸ばしきったむつは、足を曲げてゆっくり壁から離れた。とんっと床に足をつけると、はぁと息をついてぺたんっも座り込んだ。
「お前は何をしてたんだ?」
暑いと言って、シャツの襟を引っ張ってぱたぱたと風を送っているむつは、冬四郎の呆れたような声に、ふふっと笑ってみせた。




