1話
上着を着てマフラーを巻き、鞄を手にした出てきた颯介は、むつと祐斗にお先とだけ言った。祐斗は、お疲れ様ですと声をかけたが、むつは何も言わずに颯介を見送る為なのか一緒に外へと出ていった。
どこまで見送りに行ったのか、しばらくすると戻ってきたむつは、ぱたぱたと祐斗の側までやってきた。むつが居なくなってからは、祐斗は1人でストレッチをしていたが、その手を止めてむつを見た。
むつはぺたっと床に座ると、祐斗の着ているパーカーの裾から手を突っ込んできた。
「つっ‼冷たっ‼なっ…ちょっと…むつさんっが何なんすか、この手!!」
「冷えたのぉ」
甘ったれるように言いながら、むつは祐斗の身体を冷えた手で、ぺたぺたと触っていく。
「じっ…直は止めて‼直は…ううっ!!寒っ‼」
手の冷たさから逃れるように、祐斗がむつの腕を掴んで服の中から出した。そして、仕方なさそうにむつの手を包み込むように握った。
「…常に手袋しといてください」
「やだ」
「やだじゃないっすよ…もう…」
溜め息を漏らした祐斗だったが、女の子の手を握っている事自体は悪い気はしないようで、むつの手が暖まるまではしっかりも握っていた。




