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はじまり
男は手の甲で、じんわりと浮かんできた汗をぬぐって溜め息を漏らした。自分の歩いてきた道を振り返ると、足跡は1人分しかない。もしかしたら、こっちに来たわけではないのかもしれない。
真っ暗になるにはまだ早いが、雪雲のせいでいつもより暗い。そんな道は、自分でも気味が悪くなるのだから、探している相手が来るはずもないかもしれない。だが、他に心当たりの場所はすでに見て回ってしまっている。そうなると、残るは今、向かっている場所しかない。
男は盛大な溜め息を漏らすと、ふんっと鼻を鳴らして雪の中から、足を引き抜いて1歩を踏み出した。ぼすっぼすっと足音を鳴らしながら、男は再びなぎ、なぎと声をかけながら歩いていった。
ちらちらと降っていた雪は、いつの間にか重たそうな牡丹雪となっていた。また明日には、今日以上に積もるのかもしれない。その前に、帰る頃には今以上に積雪量が増えるかもしれない。そう思うと、男はゆっくりもしていられず、長い足を大きく踏み出した。