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4話
翌朝、目を覚ましたむつはじょりっとした物が額に触れて、身体を固くした。何が触れたのか、全く分からなかったからだ。だが、真っ暗ではないからすぐに何が触れたのかは分かった。西原の髭だ。非番で剃っていなかったのか、すでにちくちくする程に伸びている。そんな髭を、むつは指先でつまんで引っ張った。痛みを感じたのか、西原が顔を反らすようにして逃げたが、起きる気配はない。
こっそりと笑いながら、むつは西原の腕をそっと持ち上げた。布団から出て、朝ご飯の支度と、颯介の様子が見たいと思ったからだ。
「…まだ早くないか?」
「あ、起きちゃった?」
「髭…引っ張るなよ」
「ごめん、ごめん…伸びてたから」
「…ん…男だからな、諦めろ」
「…髭は嫌いじゃないよ」
もう1度、ごめんっと言ったむつは髭を撫でた。そして、ぽんぽんと西原の背中を優しく叩いた。すると、西原はすぐに寝息を立て始めた。くすくすと笑いながら、むつは布団から出るとキッチンに向かった。