1話
じっと座っているだけなのは苦手なむつは、寒いとは言いながらも事務所奥の空いているスペースを使って、身体を動かしている。祐斗も暇なようで、むつと一緒にストレッチしたりしている。
「わ、祐斗…身体柔らかくなったね」
ぺたっと座り足を広げて、上体を倒している祐斗の額が、床についているのを見ると、むつは本当に驚いているようだった。
「はい…道場で西原さんたちに、身体固いと怪我するって言われたので、ストレッチは家でもしてるんで」
「凄いよ、凄い‼へぇ…運動苦手そうな祐斗が、ここまで頑張ってるなんて知らなかったや」
「…そんなに苦手じゃないです。人並み。体育の成績は普通でしたから。むつさんと湯野さんが、運動神経よすぎるんです」
「あーぁ…そのうち祐斗に負けちゃうのか」
「何で、ですか?」
「柔道?」
「いや、それは…まだまだ先の事じゃないかと…西原さんに技入れる事すら出来ないんですから」
「うーん…先輩はあたしより強いよ。先輩に勝てるのは…剣道…あー…でも、どうだろ?型通りなら勝てないかも。ってより、怖くて本気でなんて無理。軽く練習程度でしか手合わせ出来ないわよ」